離職をなくす“二つの袋”の満たし方――「胃袋」と「存在の袋」を同時に守るマネジメント

離職を止める近道は、スタッフの“メンタル”に先手を打つことです。給与や休暇は重要ですが、土台となるのは心の安定。心が削られると、誰でも扱いづらく見え、コミュニケーションは硬直します。
私の実感では、**「胃袋(フィジカル)」と「存在の袋(メンタル)」**の二つを満たせているチームは、驚くほど離職が少ない。逆に、どちらか一方でも穴が空くと、不安が膨らみ、不満→反抗→離職のフェーズへと進行します。

「当たりの社員」ではなく、関わり方の結果である

「いいスタッフに恵まれているだけ」と言われることがありますが、関係性は設計の結果です。
スタッフが反発する、指示が通らない――このほとんどは、経営側の接し方・設計のほうに改善余地があります。人は環境の生き物。仕組みと言葉が変われば、ふるまいも変わります。

胃袋:まず“働ける体”を守る(フィジカルの安定)

空腹・過労・水分不足で、温和な人でも尖ります。サロン現場で起きがちな「昼抜き」「水分不足」「長時間の立ち仕事」は、判断力と忍耐力を確実に削る要因です。
小さな投資で効果が大きい順に、次を徹底ください。

シフトに“昼10分×2”の固定スロットをあらかじめ埋める(予約で潰さない設計)

給水の見える化(スタッフルームに常設・休憩の合図を共有)

閉店後の作業を分散(曜日ごとの担当制で“たまたまの長残業”を撲滅)

身体が回復するだけで、対人のトーンは驚くほど変わります。

存在の袋:言葉と役割で“自分は必要だ”を補充する

もう一つの袋が**「存在の袋」です。要は、感謝・承認・重要感を、具体で伝えているか。
「分かっているはず」は通用しません。“伝える/書く/残す”の三拍子**で、存在の袋を日々満たします。

すぐ使える:朝礼・終礼の一言テンプレ

朝礼(30秒):「昨日○○さんの△△の声かけで、仕上がり確認が丁寧になりました。今日もその一手を全員で意識しましょう。」

終礼(30秒):「○○さん、カラーの工程をお客様の言葉に直して案内してくれて助かりました。『不安が消えた』というご感想です。」

**行動+影響+感想(事実)**の三点セットで伝えるのがコツです。「すごい」「えらい」だけでは袋は満ちません。

なぜ不満の前に“不安”が来るのか

離職の流れは、不安 → 不満 → 反抗 → 離職がほぼ定石です。
経営者は“不満”に反応しがちですが、根は不安です。

役割が曖昧(任されているのか分からない)

評価軸が不透明(何を伸ばせば賃金や役割が上がるか不明)

未来が見えない(3か月後・半年後の自分像が浮かばない)

この不安が長引くと、人は自己防衛モードに入り、粗探し(不満)→距離取り(反抗)へと移ります。不満に説教で返すのは、ガソリンを注ぐ行為です。まず不安に言葉で触れること。

“言葉が足りることは永久にない”を原則に

パートナー関係と同じで、「言わなくても分かる」は通用しません。
「いないと困る」「いてくれてうれしい」「助かった」「〇〇さんの△△が活きた」――この手の言葉は朝昼晩でも足りない。伝える頻度を“過剰”と思うラインまで上げ、具体的な行動に紐づけて届けてください。存在の袋は、毎日減ります。だから、毎日補充が必要です。

実務:離職フェーズ別の対処(明日からの運用)
フェーズ0(安定)

1on1:月1回/30分(後述の進め方)

称賛ログをSlack/LINEで共有(週3件、担当持ち回り)

キャリアの“次の一段”を可視化(3か月ごとに“できることリスト”更新)

フェーズ1(不安の兆候)

朝礼で役割の再定義(今日の守備範囲を明言)

1on1で**“不安の言語化”**(事実・感情・要望の3層で聴く)

小さな勝ち体験を設計(3日で達成できる課題とフィードバック)

フェーズ2(不満の表出)

公開の場で議論しない。1on1に切り出し、**“事実の確認→合意できる最小の改善”**を約束

期限と検証をセット(「1週間で○○が△回できたら次の手」)

フェーズ3(反抗・距離取り)

境界線の再提示(遅刻・無断欠勤・指示不履行は線)と支援の提示(研修・伴走)を同時に

撤退ラインを共有(繰り返しで契約見直し)。曖昧にしないことが、他メンバーの安全になります

1on1の“型”――存在の袋を満たし、不安を先に抜く

月1回30分、経営者の側から予定を入れるのが基本です。進行は、

称賛(2分):事実×具体(「□□の声がけで××の不安が消えた」)

現状(10分):うまくいっていること/困っていること

成長(10分):次の一段(できるようにしたいこと)と支援

約束(5分):**“いつまでに何を”**を相互に明文化(メモを写真で共有)

やってはいけないのは、1on1を業務指示会議にすること。目的は存在の袋の補充と不安の排水です。

連絡の“言葉づかい”テンプレ(LINE・口頭)
① 今日の開始前

おはようございます。今日は○○さんに**仕上がり確認の一言(お家での再現)**をお願いしたいです。昨日の□□がとても良かったので、同じ型でいきましょう。助かります。

② 小さな勝ちの即時称賛

さっきの前処理の説明、お客様の言葉で言い換えてくれてありがとう。表情が和らいでいました。次回予約の一言も、その調子でお願いします。

③ 不安に触れる

最近、○○の場面で少し迷いがあるように見えました。何に不安を感じているか、今日の終礼後に10分だけ聞かせてください。こちらで用意できるサポートを考えます。

「条件で入社し、人間関係で退社する」を前提に設計する

入社は条件(給与・休日・場所)で決まりますが、退社は人間関係で決まることがほとんどです。
だからこそ、条件の整備+日々の言葉+役割の明確化の三点セットを崩さない。叱る前に不安を抜く。これが、離職率を構造的に下げる唯一の道です。

スタッフは「良くないサロン」を離れるのではなく、**「良くない経営者」**から離れます。
経営者が変わると、チームは変わります。

まとめ:毎日減る袋は、毎日満たす

胃袋(フィジカル):休憩スロット・給水・残業分散で体を守る

存在の袋(メンタル):行動×影響×感想で具体的に承認する

不満の前に不安を見る:役割・評価・未来を言語化

1on1は月1/30分:称賛→現状→成長→約束の型で

言葉は永久に足りない前提で、朝昼晩でも伝える

離職は運ではありません。設計と習慣で減らせます。二つの袋を満たす仕組みを、今日から回しましょう。

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