生産性は生存性である

生産性は“生存性”です — 見えていない数字がサロンを沈める

「2時間でいくら稼げるか」を、少しだけ真剣に見直してみてください。たとえば2時間で6,000円(全国平均に近い水準)と、同じ2時間で18,000円(御社水準)——この差は3倍です。1日8時間・月22日働くと仮定すると、2時間枠は1日4枠で月88枠。6,000円なら月売上は528,000円、18,000円なら1,584,000円。たった「2時間あたり」の設計が、月商で1,056,000円もの差を生みます。これが“生産性”であり、同時に“生存性”です。なぜなら、企業は売上ではなくキャッシュで死ぬからです。売上の多寡よりも、「2時間でどれだけ粗利キャッシュを残せるか」が、倒れないための第一条件になります。

「見えていない=計算に入れていない」コストの山

添付の図の通り、私たちは“見やすい”費用から先に数えます。家賃、給与、材料費、光熱費、広告費——ここまでは誰でもイメージできる。問題は、その右側に半透明で並ぶ“見えにくい支出群”です。決済手数料(カード・QRで3〜4%前後)、予約システムやPBX、顧問料、社会保険・労働保険、法定福利費、修繕・更新料、減価償却、在庫評価損・廃棄ロス、返金・やり直しによる機会損失、スタッフ採用・教育の隠れコスト、賞与・退職引当、税金の中でも翌期に一括で来る消費税、そして借入の利息と元金返済。
これらは日々の仕入れ伝票に表れにくいため、意識して積み上げておかないと、気づいた時には資金が薄くなっています。「見えていない=計算に入れていない」。計算に入れていない項目は、こちらの都合に関係なく確実に請求される——この非対称性が経営を壊します。

黒字倒産という“現実”

「売上は出ているから大丈夫」という言葉を、現場で何度も聞いてきました。しかし2023年の黒字倒産は52.4%とされています。利益計算の上では黒字でも、消費税の納付・賞与・更新料・突発修繕・返金対応・利払いなど資金の出口が集中する月に耐えられない。したがって、“見えていない支出”を最初から2時間の値付けに織り込むことが、経営の最低限の防御線になります。

「安くする」のは、経営がカンタンだと“誤認”しているサイン

安売りに流れる理由の多くは、「経営に大きなお金はかからないだろう」という誤認です。家賃・給料・材料の左側だけを見ていると、確かに回っている気がする。けれど右側の薄い費目を積み上げるほど、2時間6,000円の世界では現金が残らないことに気づきます。
カード比率が8割・手数料3.3%とすると、6千円のうち約160〜200円は決済で消えます。ホットな季節の光熱費、広告のテスト、備品の更新、スタッフの社会保険事業主負担、顧問料、年間の修繕1回で数十万円単位。さらに期末・期首に横断的に現れる消費税や固定資産税が、一撃で月商の数割を連れていく。
“安さ”は戦略ではありません。見えていない費用の未計上を価格で埋めようとしているだけです。きちんと勉強して明細を時間単位に割り戻すと、6千円という値付けがいかに危ういかが、数字で分かります。

2時間設計で「潰れない価格」を作る

価格は“気持ち”ではなく設計です。次の3ステップで、2時間単価に落とし込みます。

第一に、フルコストを時給に変換する。 家賃・人件・法定福利・減価償却・決済手数料・広告・顧問・通信・消耗・修繕・税・利息返済見込みまで、年間見込みを出し、営業可能時間で割り戻します。仮に年間総コストが1,920万円、年間稼働が1,760時間なら、時間当たり10,909円。2時間で21,818円を“原価”としてまず認識します(うち労務と家賃が大半を占め、販促・決済・税・修繕がじわじわ効く)。

第二に、粗利と再投資の余白をのせる。 設備更新・教育・予備費・成長投資に毎月数十万円を回したいなら、2時間当たり**+数千円の余白が必要です。ここをゼロにすると、突然の修繕や採用ですぐに資金ショート**する構図が生まれます。

第三に、体験価値と滞在設計で“納得”を作る。 価格を上げるのではなく、価格に合わせて体験密度を上げ、説明を可視化し、前後の不安時間を削る。同じ2時間でも、受付〜仕上げの摩擦時間(待ち・不明・不安)を10分、20分と削り、成果に直結する時間を濃くします。結果として値付けの正当性が体験として理解されます。

「2時間×枠数」で会社の寿命が決まる

人は“日商”で話しがちですが、倒産は資金繰り日程で起きます。2時間で18,000円の世界は、1日4枠で72,000円。ここから決済・原価・税引前利益を確保しても、積み増しの余白が残る。一方で6千円の世界は、天気・キャンセル・人員の小さなブレですぐ赤転します。
しかも、価格は集客の“質”も変える。安値は“渡り鳥客”を引きやすく、再来率・LTVが安定しません。高すぎる価格は母集団が減りますが、「納得の設計が伴った適正高単価」は留鳥(定着)を増やします。次回予約・説明密度・結果の可視化を組み合わせると、2時間の価値がお客様の言葉で再生産され、価格が“守られる”ようになります。

勉強している人ほど「安売り」を選ばない

数字に強いオーナーほど、安売りは最後の最後まで取りません。理由は単純で、難易度がわかっているからです。黒字倒産の確率、決済比率、消費税のタイミング、利払いの累積、スタッフの社会保険、採用1人あたりの獲得単価、クレーム率と返金の相関、稼働率と人件費のカーブ——これらを可視化していると、6千円の世界ではキャッシュが残らないことが明白になるからです。
逆に、能天気に見える経営は、たいてい右側の半透明がごっそり抜け落ちています。見えていないものは、いずれ突然の支払いという形で現れる。だからこそ、学び続ける人ほど価格を設計し、2時間の体験を緻密に磨き込む道を選びます。

「お金を考えなくてよい時間」を買う

最後に、少し視点を変えます。ある研究では、お金のことを考える時間が多いほど主観的幸福度は下がる傾向が示唆されています。実務の実感としても、お金に追われている時ほど、私たちの言動は短期・雑・防御的になり、顧客体験は荒れます。
では、お金持ちになる最大のメリットは何か。高い車や豪華な生活ではありません。「お金について考える時間を減らせること」です。価格を設計し、生産性を上げ、右側の支出まで先に計算に入れる。これができると、キャッシュは“呼吸”のように整います。整った呼吸は、スタッフ教育・商品開発・顧客体験という本当に考えるべきことに時間を回させてくれます。生産性を上げることは、心の可処分時間を取り戻す行為でもあるのです。

まとめ

2時間設計が会社の寿命を決める。 6,000円と18,000円で月商差は約105.6万円。

見えていない支出を先に織り込む。 決済手数料、社会保険、修繕、税、利息、返金・ロスを2時間単価に割り戻す。

黒字倒産は現実。 2023年の黒字倒産は52.4%。キャッシュの山谷に耐える価格と余白を作る。

安売りは“未計上の穴埋め”。 勉強して割戻すほど、安値の危うさが数字で見える。

体験密度を上げて“納得”を設計。 待ち・不明・不安を削り、成果時間を濃くする。価格は体験で守る。

生産性=生存性。 価格は「勇気」ではなく「計算」。2時間の中に、会社を守るすべてを入れてください。

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